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Sunday, August 28, 2022

「女子大生の日」 選択肢広げた先人の歩み 福井県ふるさと文学館学芸員・岩田陽子 エッセー時の風 - 福井新聞

2022年8月28日 午後2時00分

 児童文学作家・角野栄子さんの代表作『魔女の宅急便』では、魔女は13歳になると独り立ちし、まだ魔女のいない町をみつけ、自分の力で暮らしていかなければならない。魔女のキキは、飛ぶというたった一つの魔法を使って、「魔女の宅急便」という仕事を始める。キキはその仕事を思いついたが、占いや料理で生計を立てようとする新米魔女の姿も描かれている。

 ふるさと文学館の角野栄子展では、「魔女になってお届けしよう!」という企画を行っている。ちびライオンにしっぽをかまれたカバのマルコさんや、手品師の空色の鞄(かばん)など、お届け物のシールをお届け先に貼りに行くというイベントだ。

 先日、小さな女の子が、お届け先のパネルの前で、「カバを届けるか、かばんを届けるか、これは、ひっかけられるといけないな」と難しい顔をして言っているのを聞いた。

 こちらとしては、ひっかけるつもりはこれっぽっちもなかったが、確かに、カバと鞄は一字違いで、ことばの響きは似ている。それに、女の子が仕事をしているかのような真面目な顔をしていたのにも少し驚いた。魔女への手紙を書くコーナーでも、かわいい字で、様々な将来の夢が書かれている。子どもたちがなりたい職業を思い浮かべる時、昔と比べ制約を感じることは少なくなったのではないだろうか。

 1913年の今日、日本で初めて、3人の女性が大学の入学試験に合格した。東北帝国大学は、女性に門戸を開くことを決め、批判があってもその態度を変えなかった。

 入学した3人の女性のうちの1人、黒田チカは女性科学者の先達で、福井ゆかりの人物でもある。佐賀県の武士の家柄に生まれた黒田は、1906年に再興された福井県師範学校女子部で化学や物理を教え、寮の舎監も務めた。

 黒田はその後、東北帝国大学に入学し、化学者としての道を歩み始めた。今では女性が大学で学んでいても不思議に思われることはないが、当時は、好奇の目に晒(さら)されたという。黒田はそれでも研究を続け、化学者として活躍した。8月21日は、「女子大生の日」(日本記念日協会)とされている。

 文学の世界では、平安時代に紫式部や清少納言が登場したこともあり、女性の活躍の歴史は古い。この時代に、女性の書き手によって『源氏物語』や『枕草子』といった傑作が生み出されたことは、世界の文学史上でも稀(まれ)なことだ。

 それでも、『紫式部日記』には、学者でもあった父親の藤原為時が、漢籍をすぐに理解する紫式部が、男の子でなかったことを嘆いていたというエピソードがある。女性が学問をおさめても、活躍の場が限られていたことがうかがえる。

 武家の時代になると、女性の手によって書かれた作品で注目されるものは少なく、近代でも葛藤があった。それでも途絶えることがなかったのは、性別にかかわらず書かずにはおれない衝動にかられて執筆されているからだろう。

 『魔女の宅急便』の最終巻では、キキはとんぼさんと結婚して、双子の母親になっている。ニニという女の子と、トトという男の子だ。もうすぐ13歳になるニニは将来魔女になるかどうかの選択を迫られる。女性しかなれない魔女という存在。男の子に生まれたトトは、ほうきで飛ぶことができず苦悩する。

 しかし、ニニがほうきに乗って旅立つ日、トトも「魔女とおなじような生き方を見つけたい」と自分の足で一歩を踏み出した。2人に空を飛べるかどうかという違いはあるが、なにものになりたいかという思いは同じものだ。自分で答えを探すニニとトト。誰にとっても自分の行き先の選択肢は無限大だし、自由に切り拓(ひら)くこともできる。

 いわた・ようこ 1979年生まれ。奈良県平群(へぐり)町出身。関西大大学院文学研究科にて博士(文学)取得。専門は日本近現代文学。2013年、福井県教育庁生涯学習・文化財課文学館開設準備グループに配属。15年より現職。

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