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Tuesday, March 8, 2022

周囲の音聞こえまくり! 骨伝導以外の選択肢、ソニー「LinkBuds」 - AV Watch

2月25日から発売開始された「LinkBuds」

二分されてゆくパーソナルオーディオ

イヤフォンやヘッドフォンといったパーソナルオーディオ機器は、ここ数年は完全ワイヤレスブームに乗って、周囲の音を遮断するノイズキャンセリングタイプが主流になってきた。これは音楽を集中して聴きたいというよりも、外音を遮断することで自分がやっていることに意識を集中したいというニーズが高かったように思う。

それに加えて都会の生活は、電車や地下鉄など公共交通機関を利用して移動することが多く、それらはだいたい車内もうるさい。そうした中で音楽を聴くと必然的に大音量にならざるを得ず、周囲に迷惑がかかるだけでなく、自分の耳も悪くするという悪循環を断ち切る効果もあっただろう。

だがコロナ禍はすでに3年目に突入し、ライフスタイルも大きく変わってきた。移動がすくなくなり、家庭で過ごす時間が増えたぶん、日常生活の中で音楽を聴きっぱなしになってきた。生活しながら、仕事しながらの場合、むしろ周囲の音が聞こえることにメリットがある。耳を塞がない、装着感が軽い骨伝導ヘッドフォン人気も、そうしたニーズの表われだろう。

ノイズキャンセリングイヤフォンにも外音取り込みモードがあり、周囲の音を聴くことも可能だ。だが耳栓のように耳穴に詰め込む装着感は、どうしても長時間の“ながら聴き”には負担が大きくなる。筆者も長時間のカナル型の利用で外耳道が炎症を起こしたこともあり、最近はカナル型を敬遠しつつある。

そうしたニーズの変化をいち早く捉えた製品が、ソニーから発売された。「LinkBuds(WF-L900)」は2月25日から発売がスタートしており、店頭予想価格は23,000円前後。ネットでは2万円を切り始めているところだ。

イヤフォンの真ん中に穴が空いていて、そこから音が普通に聞こえるのだという。このために新しい機構を起こしたというソニーの新機軸モデルを、早速試してみた。

予想外に小さいボディ

本製品はソニーからの正式発表前に国外からのリーク画像が出回ってしまい、よくわからないがなんか変わってるヤツが出るらしい、という噂が拡がっていた。そして公式発表後にようやくその正体がなんなのかわかったという、ちょっと変わった経緯を持つ製品である。

画像から想像すると、注目の穴あきユニット部分は1円玉ぐらいの大きさなのかなと思っていたのだが、実際はそれよりももっと小さかった。やはり写真だけではよく分からないものである。

現物は写真から想像したよりだいぶ小さかった

さてそのLinkBudsだが、カラーはホワイトとグレーの2色。今回はホワイトをお借りしている。

形としては、ドーナツ型のドライブユニット部に、バッテリーやSoCなどが詰まった半球部分がくっついたような格好だ。表面にはソニーロゴと通話用マイクがあるが、本体が小さいのでソニーロゴも小さい。表側の構造はシンプルだ。

裏側を見ると、ドーナツ部分には小さい穴がたくさん空いており、ここからスピーカーの音が放出される。タイプとしてはダイナミック型となる。そのほか半球部分の裏側には脱着センサー、充電端子がある。

裏面に充電端子や着脱センサー

半球部分の周囲には、耳に固定するための「フィッティングサポーター」が取り付けられている。本機はいわゆるインイヤースタイルなので、このフィッティングサポーターのでっぱりの弾力で耳たぶ内に固定する。カナル型でもスポーツタイプは固定用のフィンが付いたものもあるが、役割としては似ている。

耳型へ装着してみたところ

ただ本機は耳穴で固定していないので、フィッティングサポーターで正しく突っ張っていないと、落ちやすくなる。フィッティングサポーターは5サイズ付属するので、適切なサイズを選ぶようにしたい。

フィッティングサポータは5サイズ

重量は片側約4.1gで、ノイキャンの代名詞「WF-1000XM4」の約7.3gと比べると、かなり軽量だ。一方連続再生時間は5.5時間で、1000XM4の8時間からするとちょっと短い。10分充電で90分再生可能なクイック充電に対応するので、連続再生時間より軽快な装着感を取ったということだろう。

ドライバーユニットは12mmとなっているが、真ん中がないので、一般的なユニットとのサイズ比較はあまり意味がない。防滴性能はIPX4相当で、対応コーデックはSBCとAACとなる。LDACに対応しないのは、ハイエンド機ではなく普及モデルだからという事だろう。

ケースも見ておこう。イヤフォンが小さいのでケースも小さい。本体を凹みに収納するわけだが、磁石で引き込まれるわけではなく、カチッと音がするまで押し込むスタイル。ケース側のバッテリーは約12時間分となっている。

付属ケースもかなりコンパクト
マグネット吸着ではなく、押し込んで固定するタイプ
背面に充電端子とペアリングボタン

ケースも本体も、マーブル調の模様が入っているが、外装部分は回収した樹脂を使用した再生プラスチックでできている。パッケージもプラスチックフリーで、こちらは再生紙ではないが紙製となっている。

リング状のスピーカー構造

さて実際に装着してみると、耳に填まった感はあるものの、中央部に穴が空いているため、耳が塞がれた感はない。では実際にどんな具合になっているかというのを、マイクロスコープで観察してみた。

中心右側の暗い部分が耳穴

中央の穴が空いた部分に半分ほど見える真っ黒の部分が、耳の穴である。本来ならば綺麗に円と円が重なればいいのだろうが、そこは個人差があるのだろう。耳穴の半分は隠れている事になるが、外音の聞こえ具合にはそれほど影響はない。

スピーカー自体をリング状に作ることで、耳穴が素通しになり、音が聞こえる構造であることはわかった。ではそんな形のダイナミック型スピーカーはどんな構造か、というのが興味あるところだ。

一般的なダイナミック型スピーカーの構造図を以下に示す。磁石によって発生している磁力線の中を、音声波形に合わせた電流が流れることで、横向きの力が発生する。フレミングの左手の法則どおりである。この力が振動板を動かして空気を押し引きし、音を出している。

一般的なダイナミック型スピーカーの構造

今回のリング状スピーカーは構造図が公開されていないが、ダイナミック型だということから、基本原理は同じであろう。つまりヨークの真ん中をくり抜き、キャップもなくして、振動板を限りなくエッジ方向へ細くしていった構造だろうと思われる。

とまあ言うのは簡単だが、実際それでちゃんとした音にするのは大変である。なぜならば真ん中がないので、空気を押す面積が大幅に減る。加えて振動板も薄い円盤になるので、分割振動を押さえるための強度が必要になる。分割振動が起これば、特定周波数で共振するので、音にピークができてしまう。

振動板の強度と分割振動をクリアしたとしても、まず気になるのが、音量がそれほど稼げないのではないかというところだ。つまりは空気を押す面積が小さくなるからなのだが、そこは耳に近いところで鳴るので、それほどの大音量は必要ないのだろう。音量は振動のストロークを大きく取ることで、ある程度カバーできる。

もう一つの懸念は、低音が出ないのではないかというところだ。スピーカーは口径が大きければ低域が出しやすくなるのは自明だが、径が12mmとはいえ、実効値としての振動板面積はかなり小さいはずである。

ただソニーは1000XM4のように、6mm程度の小さいドライバで十分な低音を出す事に成功しており、そのあたりのノウハウをどう活かすかがキーになる。

実際に音を聴いてみると……

では実際に音を聴いてみよう。構造が変わっているとはいってもソニー製イヤフォンには変わりないので、サウンドコントロールや各種設定は「Hedphones Connect」で行なう。

コントロールは「Hedphones Connect」で行なう

いつものようにDonald Fagenの「Morph The Cat」で低音出力を確認するが、周波数としては低い音まできちんと出ている。ただ、押し出しが弱い感じがする。低音が出ない、とは周波数的に出ていないことを指すことが多いが、本機の場合はそこはクリアしているものの、量感が少ないといった印象だ。

ただ全体的な周波数特性は悪くない。構造がユニークだと出てくる音もユニークになりそうだが、中域から高域まで特に暴れることなく綺麗に伸びている。ただ筆者は年齢的にもう高域特性がだいぶ落ちているので、若い人が聴けばやや高域が強めに感じられるかもしれない。

本機は360 Reality Audio認定モデルでもあるので、Amazon Musicで提供されているLiam Gallagher「Champagne Supernova(MTV Unplugged Live)」を360RAで聴いてみた。耳の形を撮影して最適化された特性で再生されるので、音像の広がり具合は他の認証モデルと違いはなく、安定したクオリティで再現される。特にUnpluggedのような、ベースやドラムが出てこないボーカル音源の再生には向いている。ただ若干ダイナミックレンジが狭く、聞こえ方が平坦な感じもする。

一方ロックやファンク、Drum’n’bassのような低音が重視される音楽の場合は、多少物足りないところだが、そこは「Hedphones Connect」でEQが選べる。「カスタム」でClear Bass等を足していけば、まずまず満足できる音に調整できるだろう。

音量は、ボリュームをMaxにしたら聴いていられないほどの大音量、とまではいかない。その点では、他のイヤフォンよりは小さいだろう。だが、「ながら聴き」するには十分な音量である。あまり音が大きいと外音がマスクされてしまうので、この製品の意味がなくなってしまう。全体としては、こんな変態な構造でよくここまで普通に聴ける音にまで仕上げたなと感心する。

使い勝手としては、イヤフォンを直接叩かなくても、顔を叩いただけで反応する「ワイドエリアタップ」は使いやすい。イヤフォン本体が小さいので、なかなかイヤフォン本体をピンポイントで叩くのが難しいうえに、耳穴に突っ込んでいないぶん外部からの力で外れやすいので、本体をヒットしない方法が便利なわけである。

本体を叩かなくてもタップ操作ができる「ワイドエリアタップ」を装備

また自分が発音したら音量が小さくなる「スピーク・トゥ・チャット」も使える。これは外音が入る本機では、特に有効に使える機能だ。音楽を聴きながらコンビニの店員さんと話をしても、全く問題なく会話することができた。しかも聞こえる音が、ノイズキャンセリングシステムのマイクで拾った音ではなく生音なので、イヤフォンをしていないのと変わりない。何もしなくても、スムーズに会話へ移行できるというのは、少人数のオフィスなどでも便利だろう。

会話だけでなく、生活音が聞こえることのメリットもある。例えば調理などは、意外に音に頼って判断している。揚げ物や焼き物、電子レンジの完了音やお湯が沸騰する音など、実は目だけでなく耳もフル活用しているのだ。

スピーカーで音楽をかけながら料理することも多いのだが、本機ならスピーカー再生と変わらない環境で使える事がわかった。

AIで音声を分離する通話機能

日常使いのイヤフォンだということで、スマートフォンによる通話や、Zoomなどのリモート会議でそのまま使うという事も考えられる。この場合の音声の収録性能をテストしてみた。

ノイズキャンセリングイヤフォンでは、複数のマイクを搭載している事もあり、それらを組み合わせて集音に指向性を出す「ビームフォーミング」を備えているものが増えてきている。

一方LinkBudsの場合は、マイクは左右1箇所のみで、特にビームフォーミングを使っているわけではない。ただ音声集音に関しては別のアプローチで力を入れて開発されている。5億サンプルを超えるAI学習を行ない、その成果を使って音声だけを抽出するという。

実際にショッピングモール内で通話テストをしてみた。現場は吹きぬけ近くの2階のため、2階の音だけでなく、階下の音も上がってくるような場所だ。特定の誰かの声が聞こえるわけではないが、全体的に「ドー」というガヤがあり、ショップから音楽が流れてきたり、エスカレーターのステップを注意するアナウンスが延々とリピートされているという、かなりうるさい場所だ。

LinkBudsを使って集音してみると、多少シュワシュワ感はあるものの、喋りの声だけをかなり賢く分離しており、うるさい場所からの通話にはかなり効果が高いことがわかった。

LinkBudsを使った集音と、スマートフォンのマイクを使った集音の比較

自分が喋っている声も耳から聞こえてくることもあり、声のボリュームがわからず大声になってしまう事もない。ノイズキャンセリングイヤフォンの中には、喋りやすいように自分の声をフィードバックしてくれるものもあるが、それよりもかなりナチュラルに喋ることができる。通話用としても、なかなかレベルの高いマイク、と言えるのではないだろうか。

総論

実際にモノを見るまでは、なんとなく飛び道具的なツールのように思っていたが、現物を見ると、テクノロジーの凝縮感が高く、その点でも満足度が高い。

装着感は自然で、長時間装着していてもストレスを感じることはなかった。デリケートな耳穴に異物を入れている感じがないというのが、一番大きなところだろう。

音質面ではダイナミックレンジが若干平坦な感じもするが、低音量で「ながら聴き」する機器としての音作りとしては妥当性を感じる。また低域不足はアプリのEQ設定で補えるので、色々いじってみると楽しいだろう。

マイクを使って外音を通すのではなく、穴を開けることで音を透過させるという発想自体は、すでにソニーモバイルの「Xperia Ear Duo」で具現化したが、あれは音導管を使った仕組みで、ドーナツ部自体が音源ではなかった。

今回は同じ発想ながら、ドーナツ部自体から音を出すという新技術になる。すでに初号機にして完成してしまった感もあるが、この技術をベースに、ノイズキャンセリングとは逆方向のニーズを捕まえに行くという事だろう。

ワイヤレスイヤフォンは、単に音楽を聴くだけに留まらず、こうした「機能製品化」する傾向がますます強まっていくことになりそうだ。

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