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Thursday, September 15, 2022

閉ざされた市場「高卒就活サービス」に挑む民間企業。“選択肢なき就活”は変わるか? - Business Insider Japan

高校生向け説明会

高校生向けの合同企業説明会。大学生の就活では当たり前の光景だが、高校生向けのイベントは多くないという。

提供:ジンジブ

9月16日に入社試験が解禁され、高校生の就活が本格化する。

しかし高卒生の就活には、最初に応募できる企業を1社に制限する「1人1社制」(※)が多くの都道府県で採用されるなど大学生の就活に比べ選択肢が少ない。結果的に早期離職が多くなり、離職によって非正規雇用として働く人材が増えてしまうことが問題視されている。

しかし、そんな高卒就活にビジネスチャンスを見出す企業がある。

民間企業が高校生向けの合同企業説明会を全国各地で開催したり、紙で高校に届く求人票をデジタル化するサービスを始めたりと、高校生の就活をサポートするサービスが拡大している。

大卒生に比べ「情報が閉ざされてきた」とも言える高卒就活。民間企業の参入は、高校生の就活を変えられるのか?

※1人1社制…都道府県や学校、企業が申し合わせて、最初に応募する企業を1社にする制度。内定後の辞退を減らし、競争を避けることで生徒が学業に集中できるメリットがある一方、就職先の選択肢が狭まるという課題もある。「1人1社制」を採用していないのは、全国で秋田県、大阪府、和歌山県、沖縄県だけ。厚生労働省などが全国の教育委員会に対し見直しを求めているが、改善は進んでいない。

高卒就活ナビサイトに1870社掲載

サービス画面

高卒就活のナビサイト・ジョブドラフトNaviの画面。

撮影:横山耕太郎

「リクルートは大卒就活のルールを作って成長した。私たちは高卒就活のルールを変えて成長する」

約8年前から高卒生を対象とした求人募集サイト・ジョブドラフトNaviを展開するジンジブ(大阪市中央区)の常務取締役・森隆史氏はそう話す。

ジンジブは、1998年創業の前進企業のグループ企業として2014年に誕生。販売促進や人材紹介などの事業を展開していたが、2020年1月のグループを再編し、高卒就活事業に集中する体制に切り替えた。

求人サイト・ジョブドラフトNaviは求人情報を有料で掲載しており、現在の掲載企業数は約1870社(2022年8月時点)と高校生向け求人サイトでは最大規模だ。

ただリクルートが運営する大卒向けの「リクナビ2023」の掲載数17万件と比べると、規模の違いは明らかだ。

しかし、決して高卒向けの求人が少ないわけではない。厚生労働省によると、2023年3月の高校卒業生への求人数は40万1000件あった。つまり多くの求人票は、高校に直接送られるだけで、民間の就活サイトでは検索できないのが実情と言える。

高校生の就活は、企業から高校に送られてくる紙の求人票から第1希望の企業を1社選び、選考を受けるのが一般的だ。高校に送られてくる紙の求人票は多い高校では千枚を超えるといい、高校生は短期間で1社に絞らなければならないため、ミスマッチにつながるリスクも高い。

「民間の金もうけでしょ」からスタート

森さん写真

ジンジブの森氏。「高卒就活の課題はずっと見過ごされてきてた」と話す。

撮影:横山耕太郎

大学生の就活では当たり前の求人サイトだが、ジンジブが高校生向け求人サイトを始めた当初は、高校側から冷たい視線を向けられたという。

最初は『民間のお金もうけでしょ』と。それでも地道に企業営業し、掲載企業を毎年約1.5倍に増やし続け、学校訪問も続けてきた。学校と連携してキャリア教育事業などにも関わったことで、信頼感も日に日に高まっていきました」(森氏)

高卒求人サイトを始めてから8年が経過し、2021年度には初めて事業黒字化を達成した。

近年は地元企業とつながりが深い地方銀行や信用金庫などとの提携も強化している。全国の45の地銀・信金と協力し、地元の中小企業の採用支援や、高校生向け合同企業説明会「ジョブドラフトFes」を開催しており、合同説明会の開催地域は毎年増えているという。

高卒市場での「リクルート目指す」

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高校生の求人倍率はさらに高まっている。

提供:ジンジブ

高卒就活のサービスが伸びている背景には、高卒人材への高い需要もある。

コロナで景況感が悪化したことで、一時的に高卒の求人数は減少したものの、特に地方では慢性的な人手不足を抱えている企業も多い。

「これまでは大卒生を採用していた企業でも、採用単価の高騰と競争が激化したことでさらに採用が難しくなり、高校生に目を向ける企業も増えている。

かつては『高卒は活躍できない』という学歴の偏見もあったが、最近ではIT業界などの求人も増えてきている。高卒が注目されている今こそ、私達の出番だと思っている」

注目を集める高卒人材だが、「高卒採用でのリクルートを目指す」というジンジブは、新規参入の競合サービスに神経を尖らせる。

ここ5年が勝負だと思っている。現在は大阪や東京など6拠点ですが、来年3月までに熊本など新たに4拠点を設ける。圧倒的な掲載数の確保し、若手採用課題の解決に尽くしていきたい」

元リクルートが挑む「脱・紙の求人」

資料

高卒就活では紙の求人票を使って求人を検索するのが一般的だという。

提供:スタジアム

「高卒就活はブルーオーシャン。大学就活の市場は1200億円程度と言われていますが、大卒に比べて例え4割ほどの数だとしても、ビジネスの可能性のある市場だと思っています」

紙の求人票が主流の、高校生就活でDXを進める企業もある。

スタジアム(東京都港区)が運営する高校生向け求人管理システム「Handy進路指導室」は、高校に送られてくる求人票をPDF化して読み込むことで、高校生がスマホなどで求人を探せるサービスだ。

教員の作業数が大幅に減るだけでなく、生徒側も検索で希望の職種や条件を絞り込んだり、気になる求人票をピックアップしたりできる。

「Handy進路指導室」は、デジタル庁などが後援する「日本DX大賞2022」の官民連携部門で大賞を受賞したほか、現在は377の高校が導入し成長を続けている。

「学校側は無料」にこだわる

サービス画面

紙の求人票のデジタル化は、教員の負担の削減にもつながる。

提供:スタジアム

このサービスの一番のセールスポイントは、学校側がサービスを契約すると、システムを無料で利用できること。企業に広告料を課金してもらうことで、収益化するビジネスモデルだという。

具体的には、生徒が学校に届いた求人票をスマホなどで閲覧する場合、無課金の企業は業務内容や待遇など求人票の内容だけが表示されるが、課金している企業の場合には、プラスアルファの情報として会社の写真や社員インタビュー、会社紹介の動画もスマホに表示できるという。

高校から利用料を取るのはハードルが高い。なので企業から広告費を取れる仕組みにはこだわった。

企業は広告料を支払うことで、求人票に書かれている内容をよりリッチにして高校生に届けることができる」

スタジアム執行役員で、高卒求人事業の責任者を務める前澤隆一郎氏はそう話す。

「採用意欲の高い企業からは、広告掲載の引き合いが増えている。まずは100社の広告掲載ができれば黒字化できる計算なので、大手企業を中心にアプローチしている」

コロナで迫られた新規事業開発

マスクする人

コロナ禍で新事業を模索した企業も少なくない。

撮影:今村拓馬

新たなサービスとして注目される「Handy進路指導室」だが、前澤氏は「実はコロナ禍で新規事業の必要に迫られた結果生まれたサービスだった」と明かす。

サービスを運営するスタジアムは営業代行が中核事業の会社だが、2016年頃からは新規事業としてオンライン面接ツールを開発。予想外のコロナ禍で、オンライン面接ツールは急成長したが、追い風は長くは続かなかった。

「当初は競合もおらず、2020年春は一気に導入が増えた。ただその後は無料のオンライン会議ツールが普及して、ぴたっと引き合いが止まってしまった」(前澤氏)

急な市場環境の変化に合わせて事業計画は変更になり、社運をかけて新規事業の開拓をすることになった。

「私は新卒でリクルートに入社したのですが、いま何ができるか考えたとき、自分の強みはマッチング事業だと思った。競合の少ない高卒の採用活動ならば、マーケットに貢献できるのではないかと思ったのが始まりです」(前澤氏)

既存の技術でスピード開発

前澤さん

高校就職支援事業を担当するスタジアムの前澤氏。

提供:スタジアム

求人票をデジタル化するシステムは、既存の技術を組み合わせてスピード開発した。

2021年から試験運用を始め、今年の7月からは全国の高校で本格的に使われている。

目下の目標は、導入する高校を増やすことと、企業の広告掲載を増やすことだ。

全国の高校数は限られますが、高卒人材を求める企業は数10万社あります。まずは学校側に長く使ってもらえるシステムであること。そうすれば、自然と企業も注目してくれます」

「もし高卒向けの事業が成功したら、第2、第3の市場にも挑戦できるのではないかと思っています。例えば専門学校生の就職など、まだまだ社会課題を抱えた市場は残っている。ビジネスモデルの横展開も進めていきたい」(前澤氏)

(文・横山耕太郎

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