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Saturday, July 9, 2022

愛と奉仕に生きる(7月10日) | 福島民報 - 福島民報

 ルワンダ内戦とその後の難民生活を経験した永[と]遠[わ]瑠[り]マリー・ルイーズさんが、連日報道されるウクライナの惨状に、胸を引き裂かれる思いを学生たちに語ってくれた。桜の聖母短期大学では、一年生の福祉学という授業の中で、建学の精神である「愛と奉仕に生きる良き社会人」に必要な教養と実践力を身につける。

 一九九四年四月、当時のルワンダ大統領暗殺に端を発したジェノサイド(大虐殺)。内戦下にあったルワンダで、暗殺の翌日から部族同士の争いが激化し、わずか三カ月間で、およそ五十万人から百万人が虐殺されたといわれている。その生存者であるマリー・ルイーズさんは、今、母国ルワンダの子どもたちのために学校を作り続けている。教育こそが子どもたちを貧困の連鎖から救い、国を必ず豊かにすると確信しているからだ。その姿は、まさに「愛と奉仕に生きる良き社会人」そのものだ。

 避難後、留学生として在籍した本学を母校として大切にしてくださり、毎年、ご自身の経験と、今、何を大切に活動されているのかを、母校の後輩たちにお話しくださる。学生と共に受けた授業は、今でなければ聞けない内容だった。

 ルワンダで、夕食をとっていたその時に爆音を聞き停電になり、何が起きたのかも分からず三人の子どもたちと眠った。翌日、日本の友人からの電話でルワンダの内戦を知った。戦地となった故郷から避難するため、幼い子どもの一人を背負い、二人が離れ離れにならないように手を布で縛って、自宅から持ち出せたのは小さなハンドバッグ一つ。その中には三つの宝物が入っていた。食べ物を買うお金、日仏辞典とパスポートだった。その三つが彼女と子どもたちの命を救い、日本への渡航につながった。

 辛い避難生活と難民キャンプでの暮らしが続き、日本に留学してくるまで安心して眠ることのできる夜はなかったそうだ。安心してぐっすりと眠られることは、当たり前ではなく平和の象徴である。

 マリー・ルイーズさんが留学生として私の授業を受けていた時に、同じ教室で隣の席に座り、漢字に読み仮名を付けてくれていた、今は社会人として活躍している当時の同級生が、この授業を受けに来た。授業後、二人はサプライズの再会を喜び、お互いの成長と活躍を祝福し合っていた。二人の卒業後の人生も「出会いは奇[き]蹟[せき]であり、人生を変える」というマリー・ルイーズさんの言葉どおりだった。

 内戦後、「アフリカの奇蹟」と言われるルワンダの復興を担ったのは女性たちであり、国会に女性議員が占める割合は61・3%で調査した一八八カ国中一位だ(調査国平均26・1%過去最高値 日本9・7%で一六五位)。ルワンダの平和は、女性が生み出したと言っても過言ではない。

 今日も、どこかでマリー・ルイーズさんは、ルワンダ内戦の生き証人として、戦争の悲惨さ、平和の尊さ、命のかけがえのなさを語り続けている。(西内みなみ・桜の聖母短期大学学長)

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