あらゆる子どもたちに学びの選択肢を提供したい――。そんな思いから、この5月に山形県鶴岡市で新たなフリースクールが誕生する。運営するのは、庄内地方でホテルや農業、エネルギーなど、まちづくりに向けた取り組みを総合的に手掛ける企業「ヤマガタデザイン」。同社の事業と連携したPBL(Project Based Learning)を軸にした「SORAI SCHOOL(ソライスクール)」が目指す教育の姿とは何か。運営スタッフに話を聞いた。
不登校の子どもだけが来るフリースクールにはしたくない
「既存の学校をリスペクトしつつ、ある種そこになじめない、行けなくなった子たちと向き合って、その子の個性を伸ばしてあげることをサポートする学校・居場所を、庄内でつくっていきたい」
4月6日に開かれた記者会見で、同社の山中大介代表取締役はソライスクールへの思いをそう語った。
「水田に浮かぶホテル」として有名な「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」をはじめ、鶴岡市のある庄内地方を拠点にさまざまな事業を展開する同社。実はもともと教育事業にも力を入れており、全天候型教育施設「KIDS DOME SORAI(キッズドームソライ)」や、そこを拠点にした学童保育などを運営している。ソライとは、江戸時代の儒学者・思想家である荻生徂徠(おぎゅう・そらい)の教育を受け継いだ庄内藩の藩校「致道館」があったことにちなんでいる。
同社がフリースクールを始めることになったのは、昨年の夏ごろ、学校に行き渋っている子どもの保護者から相談があり、同社の学童保育で預かれないかと検討したことがきっかけだった。しかし、従来の学童保育の枠組みでは、学校のある日中に不登校の子どもを受け入れるのは難しい。そこで出てきたアイデアが、新たにフリースクールをつくることだった。
不登校傾向の子どもの保護者からの相談を契機に動き出したフリースクールへの挑戦だが、ソライスクールの責任者で、キッズドームソライの館長も兼ねている渡邉敦さんは「不登校の子どもたちだけのためのフリースクールにはしたくないと思っていた」と明かす。「もちろん、不登校の子どもは受け入れるが、学校に通えている子どもも来られるような場所にしようと考えた。それに、私たちは公教育を否定したいわけではない。地域の公立学校や適応指導教室などと一緒に、その子が最終的なゴールとして、学校に戻る、戻らないも含めて、学びの選択肢を提供したかった」と話す。
子どもの主体性とPBLを重視した学びの土壌
「フリースクールをつくりたいとは、当初は全く思っていなかった」
当時の議論をそう振り返るのは、スタッフの一人である古賀要花(いるか)さんだ。古賀さんは慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科に在籍し、子どもが主体的に学ぶ環境について研究しようとしていた。その矢先、所属していた鈴木寛教授のゼミにいた鶴岡市に住んでいる大学院生から同社の取り組みを紹介してもらい、その理念に共感。同社の学童保育で子どもの主体性を引き出すためのスタッフの変革について、アクションリサーチを開始することになった。
「例えば、イベントをやるかやらないか、やるならどんなふうにするかを子どもが中心になって考えたり、自分たちの過ごしている環境をどうよくしていくかを、予算を踏まえた上でプレゼンテーションしたりしている。単に子どもを預かるだけ、大人がやることを与えるだけの学童保育とは一線を画している」と古賀さんは同社の学童保育の特徴を語る。
子どもの自己決定を重視し、PBLによる学びを行う学校として知られる「きのくに子どもの村学園」の出身者である古賀さん。フリースクールの構想段階から参加しており、同学園の事例や自身のこれまでの研究を踏まえ、「フリースクールよりも学校教育法に基づく認可校をつくったほうがいいのではないか」といった思い切った提案もしたという。そうした新しい学校づくりへの議論を経て、既存のフリースクールのイメージにとらわれない「日本で初めての『公正に個別最適化された協働学習スクール』を鶴岡でつくることにつながるなら、それは面白い!」とスタッフの意思が一つになった。一風変わったフリースクールであるソライスクールは、そのような子どもの主体性を大事にする学びが、土壌として学童保育にすでにあったことが大きい。
まちづくりの会社だからできるフリースクール
ソライスクールのカリキュラムは、曜日ごとに異なるプロジェクト活動と選択活動が行われる。
プロジェクト活動には「アート」「ファーム&クッキング」「コミュニケーション」があり、月曜日のアートでは、キッズドームソライの設備を使って、子ども自身がテーマや企画を考えて創作ワークショップに挑戦。火曜日と木曜日のファーム&クッキングでは、同社の農業事業や飲食事業と連携し、子どもが農作物の栽培に企画・管理段階から携わったり、そこで育てた食材などを使ったオリジナル商品を開発したりして、同社の運営する飲食店での提供や市内店舗での販売までをも視野に入れる。また、金曜日のコミュニケーションでは、子どもたちが地域の人にインタビューするなどして、「SORAI新聞」を発行。プレゼンテーションやディスカッションなど、伝える力をテーマにした活動を行う。まさに「まちづくりの会社だからできるフリースクール」(古賀さん)だ。
一方の選択活動には、キッズドームソライの中で自己表現をしたり、思いきり体を動かしたりしてもいいし、持参した教材で勉強をしてもいい「ジブン時間」が月曜日と火曜日に設けられており、その日の体調や気持ちに合わせてプロジェクト活動か選択活動かを子ども自身で決めることができる。
さまざまな子どもが利用できるようにするための回数券
もう一つのソライスクールの特徴は、回数券を事前に購入して利用する方式を導入したことだ。回数券は月当たり4回だと1万円、8回だと2万円、1回ごとは3000円(いずれも税込)で、4回と8回の有効開始期間は、利用開始日から1カ月としている。こうすることで、毎日利用してもいいし、週に1~2日だけ通うこともできるようにし、できるだけ家庭の負担を抑えながらも、多様なニーズを持つ子どもたちが通えるようにした。例えば、普段は学校に通っている子どもで、ソライスクールで行われるプロジェクトに興味があり、その活動がある日だけソライスクールに行くということもできる。
ソライスクールは小学3年生から中学3年生までを対象としており、1日に受け入れるのは10人程度を上限にしている。現在は5月9日の開校に向けて、説明会や準備が進められており、鶴岡市教委との連携も進んでいる。しかし、庄内地方ではフリースクールそのものがまだ十分に認知されているとは言えず、必要としている保護者に十分にリーチできるかはこれからの課題だ。
「まずは始めてみて、『ここでの学びはいいな』と思ってもらえたら、少しずつ広まっていくのではないか。都市部と違って庄内地方は教育に対する考えもゆったりとしているので、子どもが考えることを大事にした本来の教育ができると思っている。自分で考えて主体的に行動できる子どもに育って、自己肯定感を持った状態で自分から次のステップへと一歩を踏み出してくれたら」と、渡邉さんはまだ見ぬソライスクールで学ぶ子どもたちの姿を思い描く。
からの記事と詳細 ( 学びの選択肢があるフリースクール ソライの目指す姿 - 教育新聞 )
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