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デジタル庁は2021年10月、政府や地方自治体が共通で使う「ガバメントクラウド」の調達先として、米Amazon Web Services(AWS)と米Googleの2社を選定した。第1段となる調達からは、デジタル庁が進めるIT調達改革の意欲が伝わる。
標準的なパブリッククラウドを価格重視で選べるようにしながら、性能や技術基準は妥協しない。先進技術を積極に取り込んでいく姿勢も鮮明にした。国産勢など、企業や行政の個別ニーズに応えたプライベートクラウドを強みとするベンダーには参入への高いハードルが課された。
デジタル庁はAWSのコピーが欲しいのか
一方で調達手法に課題も残した。調達先に求めた約350もの技術的要件には、単に規模の大きさを求めたような必然性が見えにくい要件が多く混在しているからだ。業界リーダーであるAWSなどの現仕様をそのまま複製したように見える要件もある。
自動翻訳や音声認識など人工知能(AI)機能をクラウドで提供することも求めており、なぜITインフラの調達に必須なのか真意が不明だ。少なくとも今回の調達では、AWSとGoogleに米Microsoftを加えた、クラウドとAIの両方に注力する大手3社以外の選択肢はほぼ絶たれていた。
デジタル庁は、AWSを単独採用した第2期政府共通プラットフォームの廃止を打ち出してまで、複数のクラウドを競争させる「マルチクラウド」を掲げた。しかし現実には「AWSのコピー」を求め、過度に他のベンダーを排除した面は否めない。
調達に関わったデジタル庁の担当参事官は「2022年度の調達では、より多くのベンダーが応募して選択肢が増えることを期待したい」と調達結果を踏まえて語った。しかし真のマルチクラウドを実現するには、求める技術基準を保ちながら本当に残すべき要件が何かをデジタル庁が整理することも重要となる。その点で、準備不足の感は否めない。
「基準は下げず、国産ベンダーが追いつく努力を」
デジタル庁が選考基準とした約350の要件には従来の政府調達にない特徴がある。運用の自動化や省力化を推し進めるための「マネージドサービス」や「テンプレート」の充実を求めたことだ。サーバーの制御や監視、セキュリティーなど、約350のうち実に200以上を運用に関わる機能要件が占める。
背景にはデジタル庁が担当するワクチン接種記録システム(VRS)など、AWSを使ったプロジェクトでデジタル庁が自ら運用に携わったという成功実績がある。調達を担当したデジタル庁の担当者は、ガバメントクラウドでは一部システムで運用の内製化も検討していると明かす。
マネージドサービスをはじめサービスを拡充する動きは米国の大手ITが先行している。AWS、Microsoft、Googleはいずれも積極的に新サービスのリリースと機能改善を進めている。今回の要件ではマネージドサービスについて「年間で10の新サービス、100の新機能(本誌注:機能改善も含む)をリリースする」ことを求めている。選定されたAWSとGoogleに加えて、Microsoftも「条件を満たしていると考えている」と日経クロステックに回答している。
ガバメントクラウドへの参入に意欲を見せるさくらインターネットの田中邦裕社長は、自社も含めて国産勢には厳しい要件となったことを認めたうえで、「基本的には、求めるべき技術基準を下げるべきではない。国産ベンダーなども求められる基準に達するよう水準を高めるべきだ」と話す。
耐障害構成と規模の大きさは異なる
しかし、大手ベンダーの現状の仕様をそのままなぞり、必然性が見えにくい要件もある。代表例がクラウド調達で最も重要な要件の1つである冗長構成だ。
今回の要件では、データセンター(DC)群の設置地域を指す「リージョン」について「関東から北側と関西から西側の2カ所以上」としたうえで、各リージョンには独立性を高めた区画である「ゾーン」を複数置くことを求めた。問題となるのは、このゾーンを「複数のDCで構成する」ように求めたことだ。
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