皆さんは、団地にどんなイメージを持っていますか?
“古い”、“活気がない”といった声が多いかもしれません。
そうした印象をくつがえされたのが、JP京葉線の稲毛海岸駅から徒歩10分ほどの場所にある「稲毛海岸三丁目団地」(千葉市美浜区)。
名前(職業):陽平さん(会社員)、芽衣さん(会社員)
場所:千葉県千葉市(稲毛海岸)
面積:49㎡
家賃:7.9万円
築年数:52年
5階建ての住居が27棟も並ぶ団地は、数年前に外壁塗装などの外観の改修も行われ、築年数の古さを感じさせません。
そんな団地に暮らすのが、陽平さん、芽衣さんご夫妻です。
おふたりのお部屋を知ったら、団地暮らしのイメージがきっと変わるはず。
お気に入りの場所
大きなテーブルのあるリビング
陽平さんのお気に入りの場所は、日当たりも、風通しもいいリビング。
主役は、陽平さんと芽衣さんがつくった大きなテーブルです。
「新型コロナ前は友達を家に呼んで、みんなで一緒に食べたり、飲んだりしていました。
人が来たときに楽しく過ごしたいよね、という思いもあって、テーブルを大きなものにしています。多いときは10人くらい来ていたんです」(陽平さん)
「テーブルの材料はホームセンターで買いました。希望のサイズにカットしてもらった板を組み立てて、塗装したり、やすりをかけたり。
天板を乗せている木の箱もつくりました」(芽衣さん)
テーブルの後ろには、陽平さんの仕事の資料や本などを収納するための棚が。
壁に直接打ち付けたこの棚も、おふたりで手づくりしたそうです。
「今は週の半分がリモートワークで、リビングのテーブルで仕事をしています。仕事で使う資料やカタログ、本などが増えたので棚をつくりました」(陽平さん)
「棚の下に置いた椅子はリメイクしました。市販の椅子に、中にスポンジを入れて上から布を貼った座面を付けたんです」(芽衣さん)
気に入ったものは手を加えずにそのまま使い、“もう少しこうしたいな”と思うものは自分でリメイクして使いやすいようにしているそう。アイデアいっぱいの楽しい暮らしですね!
会話ができるアイランドキッチン
芽衣さんのお気に入りの場所は、リビングからひと続きになっているアイランドキッチンです。
「料理が好きで友達を家に招いたときも手料理を出すのですが、前の家はキッチンとリビングが別々の場所にあったので、料理をつくっているときは友達と話せなかったんです。
でも、この家はアイランドキッチンなので料理をしながら話せて、料理をする時間が寂しくなくなりました(笑)。
キッチンの天板は、ラワン合板にステンレスをボンドで貼ってつくりました。ステンレスはインターネットで注文すると、希望のサイズにカットしてくれるところもあるんですよ。
木のままだと汚れて掃除しづらいですし、シンクがステンレスなのでそれに合わせました。
本当はステンレスの作業台を買いたかったんですが、買うと高いので『つくるか!』ってなって。欲しいものを諦めずに、どう工夫して手に入れるかを考えています」(芽衣さん)
このステンレスを貼った天板は、つくりたいという人が多いんですって。
壁一面の本棚とソファのある部屋
陽平さんと芽衣さんのお気に入りの場所は、リビングの隣にあるこの部屋。
DIYしたソファと壁一面の本棚、そしておふたりで塗ったピンク色の壁が印象的です。
「ソファに座って本を読んだり、お酒を飲んだり、本棚を眺めたりして過ごしています。リビングの椅子だとリラックスしきれないので、お休みの日はこのソファにいる率が高いんです。私はすみっこが好きなので、一番奥に座ります」(芽衣さん)
「本棚に白い布をクリップで留めて、そこにプロジェクターで投影して映画を見ます。使わなくなったら布を畳むだけなので便利なんです」(陽平さん)
座り心地のよさそうなこのソファも手づくりしたと聞いて驚きました!
陽平さん、芽衣さん、このソファはどんな構造になっているんですか?
「ロの字型の箱の上に板を載せているだけなんです」(陽平さん)
「その板の上に、Amazonで1,000円くらいで買ったマットレス用のスポンジを置いて、上からインドで買った布をかけています。
土台にしているロの字型の箱は収納になっていて、中に資料などをしまっています」(芽衣さん)
費用は、マットレスが約1,000円、土台の板が約6,000円と、合計10,000円以下!
グレーのクッションカバーはIKEAだそうです。
ソファが欲しい皆さん、このアイデアをぜひ参考に。
この部屋に決めた理由
賃貸なのに自由にDIYできる
西千葉から稲毛海岸三丁目団地に移り住んだおふたり。
実はこの部屋、日本総合住生活株式会社(以下、JS)が稲毛海岸三丁目団地のリノベーションプロジェクトの一貫としてつくった、DIY可能な賃貸物件なんです。
団地内の空き家を活用してリノベーションし、ライフスタイルの変化に合わせた住まいを提案することで、団地の魅力を多様な世代に知ってもらおうというプロジェクトで、モデル事業として2017年からこの団地で取り組んでいるそう。
このプロジェクトが始まった当初、JSが手掛けたDIY可能な賃貸物件は合計3戸あり、そのモデルルームをつくることになったのが芽衣さんが働いている会社・株式会社マイキーでした。
「マイキーは千葉を拠点としてまちづくりやコミュニティづくりをしている会社で、その一環として『西千葉工作室』というものづくりスペースを運営しています。
2017年にJSさんからモデルルームをつくる仕事の話をいただき、その年の春にこのモデルルームをつくりました。
DIYするとどんな部屋になるのか実際に見てもらって入居者を募集していたのですが、私自身がこの部屋をすごく気に入ってしまったんです。
賃貸だけどDIYできるのが何より魅力でしたし、窓を開けると目の前には芝生や緑があって周囲の環境もすごくよかったので、自分たちで住むことを決めました」(芽衣さん)
リモートワークするにも絶好の環境
そして2017年秋に入居。リモートワークが増えた今、改めて「最高の環境」だと実感しているそうです。
「今は週の半分がリモートワークですが、それまでは職場のある都内まで毎日電車通勤をしていました。
通勤時間が長いので以前は引っ越しも考えていたのですが、リモートワークになってから家で仕事できるのですごく快適なんです。
閉塞感がないし、窓を開けると風も抜けるし、静かだし。リモートワークするには最高の環境です」(陽平さん)
「陽平くんはリビングで、私は本棚のある部屋でリモートワークをしているのですが、お互い黙々と仕事をして、話しかけたかったら話して、ちょうどいい距離感が保てています。
都内の狭いワンルームでリモートワークをして、『うーっ!』ってなっている人に『都内を離れるのはおすすめだよ!』って言いたいです」(芽衣さん)
DIYのポイント
パッと華やかに塗装した壁
2017年に入居してから4年が経った今、お部屋はどのように変わったのでしょうか?
「モデルルーム時代のものはリビングのテーブルくらいで、それ以外は暮らしながら少しずつ手を加えていきました。
オレンジやピンクの壁も、自分たちで塗りました。以前はシルバーにしていたのですが、コロナ禍で家にいる時間が長いので、部屋の雰囲気を明るめに変えようと思ってピンクとオレンジにしたんです。
壁の色を変えると、本当に気分が変わるんですよ!
塗料はカラーワークスさんのペンキで、塗るとマットになって質感がいいんです(色は、Desert Edge、Copper Canyonの2色)」(陽平さん)
家具のほとんどがお手製
壁、本棚やテーブル、キッチンの棚など、おふたりは家の中のありとあらゆるものをDIYしています。
「たくさんの本をすべて収納するために壁一面の本棚をつくりました。引っ越してきたときは余裕があったんですけど、今はだいぶ埋まってきましたね〜。
仕事用のデスクは、脚がIKEA、上に乗せている板はホームセンターで買いました」(芽衣さん)
陽平さんと芽衣さんは、お部屋の様子や暮らし方をInstagramに投稿していらっしゃいます。
フォロワーさんからは、団地に空室があるかどうかの問い合わせも多いそうです。
「JSさんがリノベした部屋はすぐに埋まってしまうほど人気なんですよ」(芽衣さん)
気になるところ
理想はもう一部屋、仕事部屋があったらうれしい
住み心地がよく気に入っているという今の住まいですが、本などの収納も多く、ふたりでリモートワークをしている陽平さんと芽衣さんの暮らしでは、もうひとつ部屋があれば完璧だったそう。
「リモートワークをするには、もう一部屋欲しいですね!」(芽衣さん)
お気に入りのアイテム
ギャラリー「HAKO」で買ったメディテーションスツール
ドーナツデザインのこのオブジェ、部屋の中でも特に存在感がありました。
「千葉にあるギャラリー『HAKO』で熊本の作家さんの作品を集めた展示があり、そこに出展していた作家さんのメディテーション用スツールなんです。
いろいろな作家さんのプロダクトが並んでいた真ん中に瞑想スペースがあって、そこにこれが置いてあって衝動買いしました。
鉄でできていて意外と座り心地もよいのですが、家では座らずに飾っています」(陽平さん)
折り畳み式のテーブル
「インターネットで椅子を探していて、たまたまヤフオクで見つけて買いました。
ソファに座って映画を見るときにこのテーブルを出して、お酒やおつまみを置くのにちょうどいいんです」(芽衣さん)
キャンプで拾ったイノシシの骨
キッチンの棚の上に置いてあった、イノシシの骨は陽平さんのお気に入りアイテムです。その出会いは衝撃です。
「館山にキャンプに行ったとき、森に落ちていたんです。汚れていたのでハイターで漂白して飾っています。
これとは別で、海に行ったときに猫と思われる骨も拾ったことがあって、今も飾っているんです」(陽平さん)
きちんとお手入れして飾ってくれているなんて、イノシシも猫も喜んでいそうですよね。
もらったり、メルカリで買ったりした椅子やスツール
「仕事用のデスクで使っている革の椅子は、とてもお世話になっている建築家の方からいただきました。
オフィスへ訪問させていただいたときに打ち合わせの部屋にこの椅子があって、『その椅子好きなんです』と言ったら結婚祝いに一脚プレゼントしてくれたんです」(芽衣さん)
スツールはメルカリなどのフリマアプリで買うこともあるそうです。
アーティストさんたちの作品
アート作品がところどころに飾られていたおふたりの部屋。部屋のアクセントとして、華やかな存在感を放っていました。
キッチンの食器棚の上に飾られていたのは、千葉を拠点に活動するアーティストさんの作品。展覧会に行ったときに見て、気に入って買ったのだそう。
さらにこちらは、芽衣さんの大学の後輩の写真。
「これを買ったとき、彼はまだ大学生で、あるバーで個展をやっていたんです。
とても気に入ったので買いたいと伝えて、額装してもらいました」(芽衣さん)
結婚祝いでもらった招き猫
「彼女の前職の先輩が結婚祝いにくれたんです。結婚祝いなのに、なぜか商売繁盛って書いてあるのがまたよくて。
よくある招き猫と違ってかわいいので気に入っているんですけど、大きくて置き場所には困っています(笑)」(陽平さん)
暮らしのアイデア
引っ越し先で使えなくなるものは買わずに自分たちでつくる
家にあるいろいろなものをDIYしているおふたり。買わない理由を教えてもらいました。
「私たちの決め事は、この家でしか使わないものは安くつくって、長く使えるものは納得のいくものを選ぶということです。
既製品の棚などは、家が変わると置く場所の寸法が変わって使えなくなることがありますよね。そうなると、引っ越し先には持っていけないので、そういうものはつくっています。逆に椅子などは引っ越し先でも使えるので、ふたりで納得のいくものを買っているんです」(芽衣さん)
なるほど〜! それは賢い暮らし方ですし、粗大ゴミも出なくていいですね。
続いて、DIYするときのコツも教えていただきました。
「棚はぴったりサイズが好きなので、入れたいものの寸法を測ってジャストサイズにつくっています。
本棚もよく見てもらうと段ごとに高さが違うんです。写真集系がちょうどいいサイズ、ハードカバーがちょうどいいサイズ、と分けているんですよ。
そうするとたくさん入るし、見栄えもいい。板は1枚2〜3,000円くらいなので、お金もかからずおすすめです」(陽平さん)
キッチンの食器棚もワイングラスやお皿など、どこに何を入れるか計算してつくっているそうです。
棚をつくりたいなぁと思っている方は、持っているもののサイズや使う頻度などを意識すると失敗がなさそうですね!
色や素材、質感などを統一させる
「靴を置いている棚もつくりました。棚板には銀色のアルミ箔のテープを貼っています。
レンジフードやダクトなど、もともとあるものにシルバーが多かったので、それに合わせました」(芽衣さん)
「机や棚に使う板は、ラワン合板に統一しています。いろいろな素材を使うとうるさくなるので。
もとからあった“黒・シルバー・木”から、素材や色を増やさないように意識しています」(陽平さん)
これからの暮らし
「住んでいるうちに生活スタイルって変わってきますが、その変化に合わせて変えていけるのがDIYのいいところなので、今後も改良していくかもしれません。住み始めたばかりの頃に全部決めなくてもいいのは楽ですよね。
次は壁を黄色にしたらどうなるだろうって話をしています」(陽平さん)
「部屋の中が自分たちの好きなワールドなら幸せかっていうと、生活ってそんなに単純じゃないと思うので、周りとの関係性も楽しんでいけたらいいなと思います。
もともと私は人を招いたり、もてなしたり、教えるのが好きで、以前は家で金継ぎ教室をしたり、フリーマーケットをしたりしていました。
団地に住んでいるおばあちゃんたちが来てくれて、世代の違う友達が増えるのが楽しいので新型コロナが落ち着いたら再開したいです。
団地は手を加えながらまだまだ住んでいけます。でも、建て替えになる団地も多いので、全部が全部そうならないで残ってくれればと思います」(芽衣さん)
取材中もご近所さんがフルーツのおすそ分けにいらっしゃるなど、交流の一端を垣間見ることができました。
古きよきものを見直して、新しい命を吹き込む稲毛海岸三丁目団地のリノベーションプロジェクト。
陽平さんや芽衣さんのように、団地の魅力に気づいて、団地暮らしを楽しむ若い世代が増えることで、この古きよきものがいい形で次世代に引き継がれていくいくことになるのかもしれません。
「団地暮らしって、いいね」、そう思うきっかけになりました。
Photographed by Kosumo Hashimoto
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