「ですが、ユーザー視点でみると食に十分に満足しているとはいえない」と語るのが、フードデリバリーサービス『Chompy(チョンピー)』を展開する、SYNのCEO 大見周平氏だ。
確かに、選択肢もあり便利であるにも関わらず「今日は何を食べようかな?」と毎日のようにワクワクすることはないかもしれない。むしろ、つい無難に同じものばかり食べてしまうという人も少なくないのではないか。
利便性は十分なはずなのに、食に満たされない気持ちがあるのはなぜか。大見氏はこれを「Googleができる前に、『Googleで検索できないから不便だ』と言わないのと似たようなもの」という。
Chompyはこうした食における“顕在化していない違和感”に対し、個人経営中心の出店者や作り手の顔が見える特徴を有したフードデリバリーサービスで、挑もうとしている。大手企業が存在感を放つこの領域で、Chompyが目指す食体験を聞いた。
食の不便を解消したい。日本中を見て決めたフードデリバリー
Chompyが生まれたきっかけは、大見氏の前職であるDeNA時代にさかのぼる。同氏は、マーケティングチームの立ち上げやゲーム開発、個人間のカーシェアリングサービスAnyca (エニカ)の事業責任者、子会社の代表などさまざまな職務を経験。30歳になったら自分で事業を作ろうと考え、事業のアイデアを練る中でのことだった。
大見氏「これまでの人生を振り返りながら、どんな事業がいいか考えました。大切にしたのは、意義の大きさや、夢を描けるかといった点に加え、業績が伸びないときや大きな決断をするときに、自分が踏ん張りきれるような事業にすること。自分が事業に100%共感し、家族や友人に自信を持って勧められることに自分の力を使いたいと思ったんです」
大見氏は、自分が強く共感を持てる事業を探すため、自分のお金の使い道に着目した。すると、固定費以外のほとんどが「食費」であることに気づく。大見氏は「食」にまつわるあらゆるサービスや状況を知るために、日本中をまわった。
大見氏「何十人もの主婦の方にヒアリングしたり、山口県の限界集落では食事をどうしているのか視察したり。宅食サービス、ミールキット、冷凍食品など、社会の変化に対応した食のサービスも一通り体験して、最終的に一番共感を持てたのが、自身のような都心に住む顧客をターゲットとした、フードデリバリーサービスでした。
食に対し、強烈な不満があったわけではないんです。ただ、選択肢はたくさんあるにも関わらず、満足しているわけでもない。我が家は共働きで、平日の夕飯のメニューには、頻繁に悩んでいました。都心の渋谷ならば好きなテイクアウトのお店がありますが、家の近くにはリピートしたいほどの店舗があるわけじゃない。好きなテイクアウト店が家の近所に出店したらうれしいですが、商売が繁盛するイメージは持てません。それもデリバリーなら解決できるのではと考えました」
そう考えた大見氏はChompyを立ち上げる。当初は社内の新規事業で検討していたが、結果的にはDeNAが新規事業の創出と起業家を輩出することを目的に立ち上げたVC「デライト・ベンチャーズ」から出資を受ける形で、起業した。
大見氏「和食がユネスコ無形文化遺産に登録されていたり、東京はミシュラン星付きの店が世界一多いなど日本の食体験は、とても豊かです。デリバリーであれば、そうした豊かな食を店舗のデザインや立地に関係なく提供できます」
個人店にスポットライトを当て、食の選択肢を増やす
ただ、市場ではすでに大手企業のフードデリバリーサービスが規模を拡大している。その中Chompyは大手が持つ「“多様なおいしさ”を提供しきれていない」「日常利用しやすい“安さ”とは言えない」「店舗がエンパワーメントされづらい仕組み」という課題に着目。それらを解決できるようサービスを設計していった。その核となるのが、Chompyが大切にする“人から人へ「おいしい」をお届けする”ことだ。この「人と人」へのこだわりは、DeNA時代に責任者を務めたAnycaでの顧客のエピソードにより生まれたそうだ。
大見氏「自分の車を他人に貸し出すAnycaは、レンタカーにはない珍しい車に乗れることが特徴のひとつでした。そのユーザーの中に、高級車であるポルシェの中でも名車と言われる1970年代の“空冷ポルシェ”を貸し出すユーザーさんがいらっしゃったんです。車を貸せば、走行距離は伸びるし、事故のリスクだってある。貴重なオールドカーを貸し出す理由が私には分かりませんでした。
そこで話を聞いてみたところ、自分と同じような車好きと出会えることがうれしいと話してくれたんです。大事な車を自分だけが使っているのがもったいないと感じていて、魅力をわかってくれる人に使ってもらえるのが嬉しいと。今、車にこだわりを持つ人は減っています。そんな状況でも、空冷ポルシェに乗りたいと目をキラキラさせた若者が来たりする。そこには車を貸して金銭を得るという機能的価値ではなく、『人と人』だから生まれる、何事にも代えがたい価値がありました。そんな出会いを僕たちも作りたいと思ったんです」
Chompyでは個人経営の店舗の掲載に力をいれている。どんな人が作っているのか、どんなこだわりを持っているのかなど、作り手らしさを感じられるのは個人店ならではだ。「日常の食生活を豊かにするには、バリエーションを提供したり、作り手のこだわりが表現できたりする個人店の掲載が欠かせない」という意図もあるという。
大見氏「飲食店の方と話していると、純粋にお客様に喜んでもらうために飲食業をやっていることがわかります。店舗のお客様であれば、料理に関する反応が見てとれますが、現状のフードデリバリーはお客様の顔がほとんど見えない中で料理を提供する側面があるため、一部の飲食店の方は『受託工場になったような気分だ』とおっしゃっています。なので、私たちは飲食店の方が求めているお客様との接点づくりをオンラインでも実現できる仕組み作りをしていきたいと考えています」
人と人とのつながりを表すため、アプリも他社にはない作りになっている。メニュー画面には店長の写真を掲載し、お店のこだわりも十分なテキスト量で紹介できる。メニューにもおすすめポイントが書いてある。店舗側ともコミュニケーションを取り、こうした情報をなるべく記載してもらえるように調整を重ねているという。UIにも「人と人」へのこだわりが表現されているのだ。
大見氏「恵比寿にあるセルサルサーレというイタリアンのお店が、コロナ禍で面白い取り組みをされていました。テイクアウトの商品を始めたんですが、仕込みの全行程を前日にInstagram Storiesにアップしているんです。真似れば同じ料理は作れるんですが、それを見ると『こんなに大変なのか!』と驚くくらいこだわっているんです。
だからこそ『買いに行こう』と思うんですが、買うためにはInstagramで前日に『これを何食ください』とメッセージを送り、タッパーを持って受け取りに行かなければいけません。アナログで不便なのですが、そうしたコミュニケーションがあることで、料理やお店への理解や、関係性が深まる。そんなつながりをChompyでも作れればと考えているんです」
こうしたChompyのこだわりは、チェーン店を中心に展開する大手のフードデリバリーサービスとは真逆のアプローチだ。
大見氏「一般的なフードデリバリーサービスだと、実際の街の風景と同じく、画面内の一等地にはチェーン店が並んでいます。せっかくのご飯ですから、だれもハズレは引きたくありません。そう考えると、情報が少なかったり、知らない個人店で冒険をするよりも、おいしさの予想がつくチェーン店を選びがちになる。つまり利用率を上げるには、チェーン店を目立つ場所に配置するのが理にかなっているのです」
加えて、チェーン店は店舗運営のキャパシティがあるので、お届け時間が早く、品切れも少ない。サービスを他エリアに展開するときもチェーン店がいてくれると助かる。フードデリバリーサービスにとって、チェーン店はすごく大切な存在だという。実際Chompyもチェーンを排除するつもりはないという。
しかし、Chompyの思想に基づけば、チェーン店ではなく個人店が数多く出店していることはサービスの重要な要素となる。個人店でも、ユーザーの期待を越えるために、いくつもの工夫を重ねている。
大見氏「Chompyでは、どの店舗の商品を食べてもハズレがない状態を目指しています。出店の希望を頂いた際には、メールでかなり細かいやり取りをしますし、下調べをして期待値を明らかに下回りそうな店舗はお断りすることもあります。例えば、名前をコロコロ変えているようなお店や、自分たちで注文してみて疑問に思う店舗などです。結果的に、実際に掲載しているのはお問い合わせ全体の3割ほどです」
配達も人と人。誰もネガティブにならない体験の必要性
「人と人のつながり」を考える上では、料理自体だけではなく宅配も重要な要素だ。Chompyでは、配達方法にも選択肢を用意している。昼と夜、それぞれ決まった時間までに注文すると何店舗注文しても送料が無料になる「らくとく便」。複数人が一緒に注文することで送料が無料になる「グループ注文」だ。
大見氏「一般的なフードデリバリーサービスは『1注文・1配達』が基本です。頼めばすぐ届けてくれますが、送料が高くなる。日常使いするには、ちょっと気兼ねしてしまうと思うんです。僕たちの配達オプションは、送料を安く抑えるだけでなく、新しい体験も提案できます。例えば、オフィスや家族がそれぞれの好みに応じた店舗を選びつつも、揃って食事を取れる。新しい店舗を試すハードルも下げられるはずです」
向き合うのは、ユーザーと店舗だけではない。配達員も同様だ。配達員などの「ギグワーカー」は、雇用契約や賃金、事故の場合の補償といった仕組みが十分に整備されているとは言えず、社会問題にもなっている。配達員との関係も人と人。Chompyでは配達員とより良い関係を築こうとしている。
稼働予約の受付や、時給補償があり、万が一の事故に備えた補償制度も業界最高水準で用意。配達員と運営の連絡網としてSlackを活用したチャットスペースがあり、なにか問題が発生した場合はチャット上でやりとりしながら解決する。また、ユーザーからの感謝コメントを送付したり、「配達員を指名したいか」といったフィードバックも送付できたりするなど、ユーザーと配達員の関係性にも気が配られている。
大見氏「サービスに関わる人の中で、誰かがちょっとでも悲しい体験やネガティブな印象を持つと、それは積もり積もってあらゆる体験に悪循環を引き起こします。関わる人全方位に良い体験を届けることが大切だと考えているんです」
柔軟な選択肢が増えれば食体験も豊かになる
社会が変化する中で、家族のあり方も変わっている。共働きや単身世帯が増え、自炊はある意味“特別なもの”になりつつあるだろう。しかし、現状では外食やテイクアウトの食事に『後ろめたさ』を感じてしまう人も少なくない。そうした現状を理解しつつも、徐々に変容させていくのがChompyの目指す食体験だ。
大見氏「日本の自炊文化は素晴らしいものではありますが、料理にかけられる時間が減っているという現実的な問題もあります。デリバリーと自炊を組み合わせてもいい。平日は外食やデリバリーを使い、休日にじっくり自炊するのも楽しいですよね。
僕自身も幼少期の体験や親世代の常識は根強く残っていると自覚しています。自炊を大切にする価値観は悪ではありません。ただ、社会の変化に合わせて、柔軟な食体験を作っていかなければいけない。その選択肢が増えていけば、食体験はもっと豊かになると信じています」
おいしさはもちろん、みんなでテーブルを囲みコミュニケーションしたり、レストランで特別な体験をしたり。顧客も、個人店も、配達員もみんなが幸せになる「人と人」とのつながりが、Chompyの食体験を生み出している。
執筆/葛原信太郎 編集/小山和之
"選択肢" - Google ニュース
August 27, 2020 at 09:12AM
https://ift.tt/3guZGEz
選択肢はあるのに、食に満足できない理由とは?フードデリバリーChompyが挑む「人」を軸に広げる食体験 - XD(クロスディー)
"選択肢" - Google ニュース
https://ift.tt/369mxRc
Shoes Man Tutorial
Pos News Update
Meme Update
Korean Entertainment News
Japan News Update
No comments:
Post a Comment