近江の前田高孝監督[写真]=金田慎平
第102回全国高校サッカー選手権大会・決勝が8日に行われ、近江(滋賀)は青森山田(青森)に敗戦し、準優勝に終わった。試合後に近江の前田高孝監督が記者会見に登壇してメディアからの質問に答えた。
初めての選手権決勝に臨んだ近江の選手たちは、国立競技場の大舞台で堂々たるプレーを見せた。立ち上がりの強さに定評のある青森山田に対し、一歩も怯むことなく、我慢強く守備を続ける。近江の前田監督も前半のゲームプランについて、こう明かす。
「青森山田の前半15分間は、嵐のような物凄い『ラッシュ』なんですよ。なので、そこはプランを練りながら、試合に入りました。ハーフタイムに帰ってきた選手たちには、0-1(と負けた状態)で初めて『ようやった!』と言って(笑)『絶対に逆転できるから!』と言いましたね」
前半を耐えて、後半に仕掛ける。これまでも近江はそうして数々の逆転劇を演じてきた。
そして実際に47分、指揮官の采配が的中する。後半開始からポジションをウイングバックに移したキャプテンの金山耀太が、後方から走り込んでラストパスを送ると、ハーフタイムで投入した山本諒がゴールを決めた。近江が同点に追いつく。
しかし、さすがは青森山田。失点に動じることなく、高円宮杯プレミアリーグ王者としての貫禄を見せつける。相手の強さには前田監督も舌を巻いた。
「同点に追いついたんですけど、後半に僕らが前に行ったところで、カウンターで仕留められてしまって。やっぱりすごいですよね、青森山田は。テレビでしか青森山田を知らなかったので、実際に(準決勝後から)2日間、青森山田のことばっかり考えていたんですけど、『やっぱり強いな』と実感しました」
具体的にどのあたりが青森山田は『強い』と感じたのか。前田監督は丁寧に説明してくれた。
「青森山田さんを分析したなかで、もちろんロングスローやロングボールも脅威ですけど、前線の選手たちが上手いんですよね。あまり注目されていないですが。ただ、上手さだけで勝ってきたチームでもないので、それを念頭に置いて試合に入りました。彼らの上手さは、105メートルかける68メートルのピッチの中で、『最短』『最速』で技術を発揮するところにあります。彼らが105メートルかける68メートルを使って『最短』『最速』でプレーするのであれば、我々はコートを狭くして、コンパクトフィールドを作って戦おうと。前半は起点をつくりながらやって、後半はコンパクトなフィールドをつくって局面で勝って、勝率を少しでも上げようと意識してやりました。選手たちは一生懸命プレーしてくれました。けど、彼らの頑張りを結果に結び付けられなかった僕の指導者としての未熟さが出た試合だったと思います」
同点に追いついた近江だが、その後は青森山田との力の差が如実に現れた。60分、米谷壮史に勝ち越し点を決められると、70分には杉本栄誉のシュートが近江のDFに当たってコースが変わり、オウンゴールで追加点を献上。結果は1-3で敗れ、準優勝に終わった。
近江史上初の優勝は果たせなかった。だが、前田監督は選手たちの戦いぶりに胸を張った。学校としての名誉や威信よりも、指導者としてもっと大切なものがある。
「初めて選手権でここまで勝たせていただいて、何が素晴らしかったかと言えば、『選手の成長』なんですよ。いいスタジアムを用意していただいて、関東の高校の先生が運営してくださって、マスコミの方々が選手たちを取り上げてくださって、そのおかげで彼らがこの大会で大人になる一歩を踏み出せたと思います」
前田監督には後悔があった。昨年12月、高円宮杯プレミアリーグ参入戦で鹿児島城西(鹿児島)と対戦したとき、試合前に選手たちへ「近江の歴史変えるぞ!これだけ最速でプレミアに行ったらかっこいいぞ!高校サッカー史上最速だぞ!」と発破をかけたという。しかし、選手たちは重圧に感じたのか、本領を発揮できず、結果は0-1で敗戦した。前田監督は自身の責任を強く感じたと振り返る。
「物凄く申し訳なかったなと思いました。彼らが歴史を背負う必要なんて全くなくて、『今年の近江』の色を出せばいいだけだと。余計なことを僕が彼らに背負わせて、プレーでガチガチになってしまったんじゃないかなと思いました。だから、今大会に関しては、選手にめちゃくちゃリラックスさせようと思って、のびのびとピッチの上で躍動してほしいという思いがありました。変な重りがなく、彼らが純粋にサッカーと向き合えるような環境をつくろうと心がけていました」
前田監督のサポートもあり、今大会、近江の選手たちはのびのびとプレーし、『今年の近江』らしいサッカーを見せて観衆を魅了した。大会を通して、選手一人ひとりが逞しくなり、大人になっていった。チームとしても、試合を重ねるごとに『強くなった』と前田監督は言う。
「最終的にピッチの上で『カオス』になりましたね(笑)。でも、カッコいいチームになりましたよ。『清々しく戦いよったな』と。決勝の青森山田戦は、まだ(映像で)見れてないですけど、カッコいい仲間の絆も深まったとったし、カッコいいチームになったなと思いますね。選手権の期間中にどんどんチームが明るくなって、外から見ていて、どんなことするのかなと思っていましたよ。いろいろ痺れる試合もできました」
会見中に何度も「カッコよかった」と選手たちを称えていた前田監督。しかし、3年生にはここで満足してほしくないと強く願っている。
「3年生にとっては卒業になりますので、次の目指すべき場所があります。過去を振り返ることなく、生きていってほしいと思います(中略)。優勝しても準優勝しても、過去のことを引きずってほしくないです。『俺、あのとき良かったな』ではなく、『今を生きる』ということですね」
記者会見では常に笑いを交えながら、一つひとつの質問に真摯に答えていた前田監督。最後に、近江が行っているクラウドファンディング(※)が目標金額の1,000万円を超えたこと、近江がメディアで大きく取り上げられたことについて質問を受けると、冗談を交えながら、こう回答していた。
「(メディアの情報は)あまり見れてないですね。選手権は中1日なので、結構忙しくて。本当に助けられたなと思ったのが、ブラックサンダーとコーヒーとレッドブル、この『三種の神器』で乗り切りました(笑)。これ注入したら、無敵なんですよ?(笑)。眠たくならへん(笑)本当にね…。なんでしたっけ質問?(笑)。クラウドファンディングは、返礼品が『ひこにゃん』に近江のユニフォームを着ているやつなので、結構いいと思いますよ(笑)ありがとうございました!(笑)」
準優勝という悔しい結果に終わったが、前田監督に率いられた今大会の近江の快進撃は、これからも多くの人の記憶と心に残るはずだ。
(※)なお、近江は選手権に参加する選手たちの出場経費(大会期間中の宿泊費および練習に係る経費等)、応援生徒たちの移動経費(応援に係るバス代、応援グッズに係る経費等)の支援をクラウドファンディングで募っている。すでに目標金額の1,000万円に到達したが、15日まで受付中。前田監督が言及した『ひこにゃん』とのコラボグッズは8,000円以上の支援で返礼品として受け取れることになっている。
▼近江のクラウドファンディング(外部リンク)
https://yellz.jp/detail/250060/project/949/
2024-01-08 12:22:00Z
https://news.google.com/rss/articles/CBMiRmh0dHBzOi8vd3d3LnNvY2Nlci1raW5nLmpwL25ld3MvamFwYW4vaGlnaHNjaG9vbC8yMDI0MDEwOC8xODUyMDk3Lmh0bWzSAQA?oc=5
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