直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)リバーロキサバンは、下肢血行再建術施行後の末梢動脈疾患(PAD)患者における血栓・塞栓形成抑制の適応が承認された初の抗凝固薬である。同適応を有する新規格の2.5mg錠を今年(2022)10月に発売したバイエル薬品は11月10日にプレスセミナーを開催。旭川医科大学外科学講座血管・呼吸・腫瘍病態外科学分野教授の東信良氏が下肢のPADの重要性と治療の課題について解説、小倉記念病院(福岡県)循環器内科部長の曽我芳光氏は下肢血行再建術後のPAD患者に対し新たな治療選択肢となるリバーロキサバンとアスピリン※の併用療法について紹介した。
下肢PAD治療の大きな課題:血行再建術後の再狭窄と不十分な疾患認知
「足の狭心症」とも称される下肢のPADは日本では70歳以上の2〜5%に見られ、高齢化の進展に伴い増加している。日本血管外科学会アニュアルレポートによると、下肢動脈閉塞性疾患に対し血管内治療(EVT)を受けた症例数は2016〜21年の5年間で約2倍に増えたという。
中等度以上の下肢PAD患者が適応となるEVTやバイパス術などの血行再建術は、技術やデバイスの進歩により成績は向上している。しかし、施行後に再狭窄が生じたり、非治療部位で動脈硬化病変が進行するなど、下肢PADの術後管理には課題が多い。下肢切断に至った下肢動脈に多数の血栓が認められたとの報告から、東氏は下肢PADに対する血栓の影響は想定以上に大きく、抗凝固療法などの薬物療法が重要との考えを示した。
下肢PAD治療のもう1つの大きな課題は「疾患としての重要性が患者にも医療者にも十分に認識されていないことだ」と同氏は指摘。下肢PADを早期に発見して適切な治療につなぎ、患者の歩行と生命を守るには、医療者、市民ともに下肢PADの重要性を認知することが必要であると強調した。認知度を高める方策として、同氏が班長を務めた『末梢動脈疾患ガイドライン2022年改訂版』では「市民・患者への情報提供」の章を設け、一般市民・患者への啓発を図っている。医療者に対しては「本日のセミナーのような機会を通じ、下肢PADに関する正しい医療情報を伝えていきたい」と述べた。
VOYAGER PAD:リバーロキサバン+アスピリン併用で、下肢血行再建術後の心血管・イベントリスクが15%低下
曽我氏は、下肢血行再建術後の血栓性閉塞の問題として「抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)の限界」を挙げ、解決には抗血小板療法+抗凝固療法の2つの経路(dual pathway inhibition;DPI)による治療が有望であると述べた。そのエビデンスが国際共同第Ⅲ相試験VOYAGER PADである。
VOYAGER PADでは下肢血行再建術施行後の症候性PAD患者6,564例を、アスピリン(100mg 1日1回投与)単剤群とアスピリン+リバーロキサバン(2.5mg 1日2回投与)併用群に分け、重大な血栓性血管イベントの抑制について比較した。その結果、アスピリン単剤群に対しリバーロキサバン併用群では有効性主要評価項目とした複合エンドポイント(心筋梗塞、虚血性脳卒中、心血管死、急性下肢虚血、血管系の原因による大切断)の発生率が15%有意に低く〔ハザード比(HR)0.85、95%CI 0.76〜0.96、P=0.009、図〕、急性下肢虚血のリスクは33%低かった。安全性主要評価項目とした大出血は、リバーロキサバン併用群が多かったが、有意差はなかった。このリスク低下は、同試験の日本人集団サブグループ解析でも一貫して認められた。
図.有効性主要評価項目:複合エンドポイント(心筋梗塞、虚血性脳卒中、心血管死、急性下肢虚血、血管系の原因による大切断)の累積発生率
(N Engl J Med 2020; 382: 1994-2004)
以上から、同氏は「抗凝固薬と抗血小板薬を併用することで、下肢血行再建術後の再閉塞リスクの低減は可能と考えられる。リバーロキサバンとアスピリンによるDPIは、下肢血行再建術後の抗血栓療法の新たな選択肢になりうる」との見解を示した。
(編集部)
- ※ アスピリンは下肢血行再建術後のPAD患者における血栓・塞栓形成の抑制としては国内未承認
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