両チームの駆け引きが詰まった一戦だった。10連勝が止まり連敗だけは阻止したい広島と、首位攻防で連勝したい阪神。両者の思惑がぶつかり合った。特に目を見張ったのは、3回表裏の攻防だ。

まずは表の広島の攻撃。先頭矢野が内野安打で出塁した。続く投手の森下は当然、バントの構えを見せた。これに一塁大山、三塁佐藤輝は、青柳の投球モーションに合わせて思いきって前進。二塁封殺を狙いバントシフトを仕掛けたが、それを矢野が見逃さなかった。大山が塁を離れたスキに好スタートを切り、二盗に成功。続く小園の詰まった右前打で一気に同点のホームを陥れた。

リスクを伴うバントシフトは、終盤で仕掛けるのが一般的だ。早くも3回で仕掛けたのは、阪神ベンチが勝負のポイントとみたからだろう。攻撃的に守ったと言える。それに広島は足で対応し、1点を奪った。選手の意識が高いから、スキを突く走塁ができる。

裏の阪神の攻撃でも攻防があった。先頭の近本が中前打。続く中野の打席、カウント1-1でエンドランを仕掛けた。だが、広島バッテリーは外にはずし、中野は見逃し。近本は一、二塁間で挟まれ刺された。エンドランは打者有利のカウントで行うのが一般的。ここでも阪神の仕掛けは早かった。走者近本、打者中野で単独スチール、バントなど何でも考えられる中、外されるリスクを負って足を絡めにいった。それに広島バッテリーが冷静に対応し、ピンチの芽を摘んだ。

広島は主力の故障や不振が重なり、開幕当初のオーダーから半分ほど入れ替わっている。3回の1点など、今のメンバーでどう点を取るかを突き詰めた成果とも言える。相手からすれば、一瞬のスキも見せられず非常にやっかいだ。

阪神は、ベンチが責任を負って攻守に積極的な姿勢を貫いている。6回1死一塁で7番坂本が送りバント。8番木浪は申告敬遠され、9番青柳に打席が回った。攻撃的にいくなら投手に代打と思われるかも知れないが、7回に1番近本から始めたかったのだろう。木浪が歩かされるのは承知の上で、坂本にバントさせた。試合運びに対するベンチの明確な意図を感じた。

駆け引きがぶつかり合う好ゲームで互いに譲らず、これぞ「野球」と思わされた。この日の仕掛けは今後の布石にもなる。次戦以降どうなるのか、非常に楽しみだ。(日刊スポーツ評論家)