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Monday, May 30, 2022

量子コンピューター、PoCに使える商用ハードの選択肢 - ITpro

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 量子コンピューターのPoC(概念検証)が可能になったのは、一般企業が活用できる商用のハードウエアが登場したためだ。今回は、日本を含む世界中の企業が検証を進める量子コンピューターのハードウエアやその特徴を紹介する。

 商用で提供されている量子コンピューターの主なハードウエアとしては、「量子ゲート方式」と「量子アニーリング方式」がある。この2つの違いを説明しよう。

 量子ゲート方式の量子コンピューターについては、量子化学計算や金融工学など様々な分野での応用が期待されている。実用的なハードウエアが登場するのはまだまだ先だが、大幅な計算量削減が保証されているアルゴリズムが存在するため、様々なユーザー企業が実用化に向けた研究開発を活発に進めている。

IBMやスタートアップが量子ゲート方式を商用化

 量子ゲート方式の量子コンピューターを初めて商用化したのは米IBMで、2016年に5量子ビットのマシンをオンラインで公開した。現在は最大127量子ビットのマシンを提供しているほか、2025年までに4000個を超える量子ビットを搭載するマシンを実現するとのロードマップを2022年5月に発表している。

 量子ゲート方式のハードウエアはほかにも、米Rigetti Computing(リゲッティコンピューティング)や米IonQ(イオンQ)、英Quantinuum(クオンティニュアム)、英Oxford Quantum Circuits(オックスフォード・クアンタム・サーキッツ)などのスタートアップが商用化している。

主な商用量子コンピューター

ベンダー名 方式 ハードウエア 量子ビット数 クラウドサービスでの提供
米Google 量子ゲート 超電導 2019年に53量子ビットで量子超越性を実現。2029年までに10万量子ビットを目指す まだ
米IBM 量子ゲート 超電導 現在は127量子ビット。2022年中に433量子ビット、2025年までに4158量子ビットを目指す 自社
米IonQ 量子ゲート イオントラップ 現在は20量子ビット。2028年には1024量子ビットを目指す Amazon Braket、Azure Quantum、Google Cloud
英Oxford Quantum Circuits 量子ゲート 超電導 現在は8量子ビット Amazon Braket
英Quantinuum 量子ゲート イオントラップ 現在は10量子ビット Azure Quantum
米Rigetti Computing 量子ゲート 超電導 現在は80量子ビット。2023年までに336量子ビットを目指す 自社、Amazon Braket
カナダD-Wave Systems 量子アニーリング 超電導 現在は5640量子ビット。2024年までに7000超の量子ビットを目指す 自社、Amazon Braket

 IBMが自社で量子コンピューターのクラウドサービスを提供している一方、スタートアップの量子コンピューターは大手のパブリッククラウド経由で利用可能だ。米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)の「Amazon Braket」では、リゲッティとイオンQ、オックスフォード・クアンタム・サーキッツのハードウエアが利用可能だ。米Microsoft(マイクロソフト)の「Azure Quantum」ではイオンQとクオンティニュアムのハードウエアが時間課金で利用できる。

 量子コンピューター、しかも量子ゲート方式の商用サービスが登場するとは、2010年ごろには全く想像されていなかった。2025年の段階で数千個の量子ビットを備えた量子コンピューターが利用可能になるという未来も、数年前なら想像できなかった。量子コンピューターは誰も予測できない加速度的なスピードで進化している。

量子ゲート方式の実用化には課題も

 しかし、量子ゲート方式の量子コンピューターがクリアすべき技術課題も大きい。主な課題はハードウエアのエラーだ。現在実現している実機は量子ビットのノイズが大きく、それによって発生するエラーを訂正できない。そのため現在のハードウエアはNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum Computer、ノイズがありスケールしない量子コンピューター)と呼ばれている。

 今後のハードウエアには、量子ビットの数にあえて余裕を持たせることでエラーを訂正する「誤り訂正」と呼ばれる仕組みが必要になる。誤り訂正を直感的に説明すると、1個の量子ビットのみに対して演算を施してエラーが発生したとしても、エラーの発生そのものに気づくことはできないが、3つの量子ビットに対して同じ演算を施せば、エラーがそのうちの1つで発生したとしても、多数決によって訂正できるといった仕組みだ。

 誤り訂正が実行できる量子コンピューターのハードウエアはFTQC(Fault Tolerant Quantum Computer、誤り耐性量子コンピューター)と呼ばれる。量子コンピューターによる効率的な計算の実現が理論的に保証されているアルゴリズムの多くは、FTQCを前提にしている。

 しかし実用的なFTQCに必要な、誤り訂正に用いる余分な量子ビットの数は膨大だ。ノイズのない量子ビットを数百個必要とするアルゴリズムを実行するには、数万量子ビットが必要となる。

 問題はそれだけではない。誤り訂正のために計算状況をチェックする必要があるため、計算全体の遅延を引き起こす。さらに量子ビットはある一定時間を過ぎると情報を保持できなくなってしまうため、計算の遅延は意味のない計算結果を出力することにつながる。どのような誤り訂正が有効なのかまだ正解は出ていないので、泥臭く改善を進めているのが研究者の実情だ。

ユーザー企業がFTQCを待たずにPoCを始める理由

 とはいえ量子コンピューター用のアプリケーションの研究者やユーザー企業は、FTQCが実現されるのをただ待っているわけではない。量子ゲート方式で動かせるアルゴリズムの中には、指数的な加速を引き起こすほどの圧倒的な高速性が保証されているものもある。そういった「量子加速」をいかに早期に実現するか、もしくは実現したときにどう使うかを日々考えている。

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