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Sunday, October 31, 2021

【私たちの選択肢】宗教にのめり込む母、アルコールに溺れる父、漫画家・菊池真理子が経験した「宗教2世」問題| - @DIME

【私たちの選択肢】宗教2世問題 漫画家・菊池真理子 前編

人生に行き詰まると、わたしたちは目の前の世界しか見えなくなります。そんな時、知らない世界や知らない誰かの人生を知ると、すこし気持ちが楽になったりします。

人はいくつもの選択肢をもっている。そして自由に生きることができる。このインタビューは、同じ世界に生きている"誰か"の人生にフォーカスをあてていきます。

宗教に熱心な母、アルコールに溺れる父、誰もいない家。

物心ついたときには母が宗教に入っていたので、宗教がない生活をしたことがありませんでした

そう語る菊池真理子さんは、漫画家です。実録エッセイ『酔うと化け物になる父がつらい』や、アルコール依存症について取材をした『依存症ってなんですか?』をはじめ、多くの作品を描いています。

最近、宗教2世をテーマにした連載がはじまりました。菊池さん自身が、今まで隠してきた宗教2世としての経験。そこを描くということは、自分が蓋をした過去にふたたび足を踏み入れる行為です。しかし、今まで抱えてきた生きづらさの答えにも繋がっていたと言います。

幼稚園や小学校のころは、自分の家だけが宗教をやっているとは思いもしませんでした。母は宗教の新聞配達をしていたので、朝4時にはもう起きて出かけていました。

わたしが朝ごはんをご飯を食べていても、母は一緒には食べずに熱心にお経をあげて鐘を鳴らしているんです。部屋に仏壇があるのも日常風景でそれが当たり前だと思っていました

ほんとうは自分も一緒にお経をあげなくてはいけないのですが、ご飯を食べてからお経をあげると学校には間に合わなくなってしまいます。小学生ながら、毎朝、罪悪感があったそうです。

菊池さんが学校から帰ってくると、家には誰もいません。

母親は宗教活動、父親は仕事。家はいつもガランとしていました。母親は自身でも新聞を6部とっていたので、家には新聞が山積みです。ノルマがあったのかもしれません。しかしそれは見慣れた光景。ランドセルを置くと自転車に乗って妹を学校まで迎えに行き、ふたりで絵を描いて遊ぶのが日課でした。両親が共働きのクラスメイトを見て、「さみしくないのかな、かわいそうだな」と思ったこともあったそうです。家に誰もいないことが当たり前になりすぎて、自分も同じ状況だとは気づけなかったのです。

夜になると、毎日のように信者が集まる家に出かけていました。宗教活動には時間がかかるため、菊池さんたちは8時には寝かされていたそうです。

平日の夜には母と一緒に集会へ連れて行かれることもありました。そうするとすぐ寝る時間になってしまい、お風呂は5日に1回くらいしか入っていませんでした

宗教に反対していた父親は、毎朝毎晩お経を唱える母を見ると不機嫌になり、存在自体を無視しました。しかし、子どもの清潔を保つよりも、宗教の活動を生活の中心としている母親にその声は届きません。夫婦の仲は悪化するばかり。父親はアルコールに溺れていき、ついにアルコール依存症となってしまいました。

同じ宗教に入っていたクラスメイト

そんな毎日が"普通"だと思っていた菊池さんは、小学校の担任の先生から衝撃な言葉を言われてしまいます。

小学校の授業で"あなたの家ではなんの新聞をとっていますか?"というアンケートがあったんです。そのときに宗教の新聞名を言ったら、"それは新聞じゃないです"と担任の先生に言われました。

そのころ、クラスメイトはほぼ毎日お風呂に入っていることも知ったんです。うちは他の家と違うの? って、ちょっとおかしいなと思いはじめました

じわじわと気づき始める宗教への違和感。決定打となったのは小学校5年生のときに入れられた宗教の合唱部です。何百人と集まる大きな大会で偶然ある人と目が合いました。それは同級生だったのです。お互いにハッと気づきましたが学校では宗教の話をしたことがありません。その後、学校で出会っても、一度もこの日のできごとには触れませんでした。お互い、これは言うべきではないと気づいていたのです。

ある日、いつものように宗教の人が家を訪ねてくると、普段は温厚で無口な父親が、「うちはそういったものは信じていない!」と怒鳴り母親は泣き出しました。菊池さんは、黙ってほっておけば静かに暮らせるのに父親が平和を壊しているのだと思うようになっていました。

宗教は"世界の平和"とか、"人を大切に"とかキレイなことばかり言うので、きっと正しいことを言っているんだろうなと思っていました。宗教にのめりこむ母がおかしいことには気付かず、父さえ宗教を信じてくれれば丸く収まるのにと思っていました

宗教の決まりで、地域の夏祭りに参加することはできませんでした。友だちがお神輿を担いでいるのを眺めるだけです。

お祭り行事で水が必要になると、お祭り会場から遠いのにわざわざ長いホースを使ってうちの水道を使っていました。なんでうちばっかり損な役割をするのって思っていたんですけど、きっと母が近所のみんなに宗教の新聞をとってもらっていたんです。だから嫌味を言われたり面倒なことを押し付けられていたんだと思います

眺めるだけの夏祭りから家に戻ってくると、母親がこっそり法被を着ているのを見ました。宗教の教えでは絶対禁止のはずです。その姿に驚いていると、母親は悲しそうな顔をして、"ごめんね、こんなの着たらだめだったよね"と慌てて法被を脱ぎました。

その瞬間、母だってほんとうは普通の暮らしをしたいんじゃないかって気づいてしまったんです。お祭りにも参加したかったんだと思います。宗教を捨てられたら、わたしたちはきっと楽しく過ごせたのに…

母の死と宗教の教え

夫婦間も近所付き合いもうまくいかないなか、母親の心の支えは宗教だけでした。しかし、そこにもヒビが入っていきます。

同じ地区の信者の人が達成できなかった新聞ノルマを、肩代わりしていたんです。信者の人がうちにお礼を言いにきて、母は"また来てね"って笑顔で見送ったんですけど、玄関のドアを閉めたとたんに"わたしがどんな想いでいると思ってるのよ!"と泣き崩れたんです。他人の悪口は言わないという教えを守っていつも愛想のいい母でしたが、真実は自分の気持ちを押し殺して苦しんでいました。そのギャップを見て、この人はいつか死んでしまうのではないかこわくてたまらなくなりました

結婚をしたら入信してくれる約束だったのに宗教を批判され、想像していたものと違う結婚生活。家から逃げるように通う宗教の座談会。しかしそこでも人間関係がこじれてしまう。ついに宗教にすら居場所がなくなった母親は心を病み、ほぼ1日中家で泣いて過ごすようになっていました。

そして、菊池さんの不安が現実のものとなります。

毎日ずっと不安でした。学校に行くときも、これで最後でもう会えなくなるかもってこわくて。いつか母が死んじゃうもと思っていたらほんとうに死んじゃった…

救いがなくなってしまった母親が死を選んでしまったのです。

宗教で人は幸せになれなかった。その現実を目の当たりにしたのに、菊池さんは自分の心から宗教を完全に消すことができずにいました。

自分のなかに信仰心はないはずなのに、小さいころから教えこまれて染み付いてしまった恐れが自分のなかに強く存在していたんです

母の死以降、宗教と自分を結びつけていたものはなくなったはずなのにそこから逃げられない。菊池さんは悪夢ばかり見るようになりました。その恐怖から逃げるため、寝る前には枕にお経を唱えます。おまじない的なものとして宗教の教えが残ってしまったのです。

あれほど憎んだ宗教が自分のおまじないになってしまう。菊池さんは自分の気持ちがわからなくなって不眠症になってしまいました。

後半では、自身の体験談を漫画として描くこと、そして自分と同じ経験をした人や世間への想いについて伺います。

菊池真理子

漫画家。アルコール依存症の父と、新宗教の信者の母の間に生まれる。現実逃避のように描いていた落書きが、今の仕事につながる。

著書に『酔うと化け物になる父がつらい』『毒親サバイバル』『生きやすい』『依存症ってなんですか?』 現在「よみタイ」にて、宗教2世に取材した「「神様」のいる家で育ちました」を連載中。

写真:郡山総一郎

文・成宮アイコ

朗読詩人・ライター。機能不全家庭で育ち、不登校・リストカット・社会不安障害を経験、ADHD当事者。「生きづらさ」「社会問題」「アイドル」をメインテーマにインタビューやコラムを執筆。トークイベントへの出演、アイドルへの作詞提供、ポエトリーリーディングのライブも行なっている。EP「伝説にならないで」発売。表題曲のMV公開中。著書『伝説にならないで』(皓星社)『あなたとわたしのドキュメンタリー』(書肆侃侃房)。好きな詩人はつんくさん、好きな文学は風俗サイト写メ日記。

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編集/inox.

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