人気漫画を不正に複製した「海賊版サイト」の被害が過去最悪とされる状況にあることが、出版社などでつくる対策団体の調査でわかった。社会問題になり、2年前に摘発された海賊版サイト「漫画村」の最盛期に比べ、アクセス数ははるかに上回っているという。何が起きているのか。
「特効薬はなく、できる対策を続けるしかない。あきらめたらそこで試合終了、ですから」
大手出版社の集英社(東京)で海賊版対策を担当する伊東敦さんはそう話す。
集英社は、自社の漫画が海賊版サイトに掲載されるたび、サイト側に対し削除要請を送っている。業者の協力を得ながら、海賊版サイトを数え切れないほど巡回。海賊版漫画が掲載されたページのアドレス(URL)を特定していく。
海賊版サイトやそのサーバーの運営会社などへ、「(著作権の)侵害物の削除を要求します」といった要請を多い月で約12万件は出す。刑事告訴の件数も年間約10件に上る。伊東さんは「以前は1人で削除要請を送っていた。マウスの操作しすぎで、腱鞘(けんしょう)炎になったこともあった」。
伊東さんは、出版社や通信事業者などが加わった海賊版対策の一般社団法人「ABJ」(東京)の広報・法務部会長。漫画の海賊版サイトによる被害の現状について「史上最悪。『漫画村』の最盛期を超えてしまった」との認識を示す。
「漫画村」とは、かつて存在した日本最大の海賊版サイト。ABJの集計で、月間で最大約1億件のアクセスがあった。スマートフォンでの読みやすさが利用者を集めた要因とされる。
海賊版が社会問題化するきっかけとなった漫画村は2018年4月に閉鎖。他のサイト消滅も相次ぎ、被害は一時的に減った。しかし翌年秋ごろから再び増加に転じる。「読みやすいサイトが次々と生まれてしまった」(伊東さん)
ABJが確認している海賊版サイトの数は約750。アクセス数が多い上位10サイトの集計だけで、月間のアクセス数が計約2億4千万回に上り、漫画村をはるかに超えてしまった。
さらに上位3サイトの合計をみると、昨年1月から今年4月にかけて約14倍に激増した。伊東さんは「コロナ禍での『巣ごもり』の結果なのかもしれない」とみる。ほかに動画サイトへの違法配信などもあり、全容は把握できないのが現状だ。(吉沢英将、編集委員・須藤龍也)
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