新たな伝説の幕が開く。ボクシングのWBA、IBF世界バンタム級統一王者井上尚弥(27=大橋)が10月31日(日本時間1日)、米ラスベガスのMGMグランドでWBA同級2位ジェーソン・モロニー(29=オーストラリア)との防衛戦に臨む。同30日の前日計量は井上が約53・3キロ、モロニーが約53・4キロでともに1回でパス。聖地ラスベガスで初めての試合となる井上は、自身のSNSで「この1年でパワーアップした姿を見せたい」と勝利を誓った。
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計量を終えた井上は、両拳を握り、オーストラリア国旗をまとったモロニーと向き合った。準備万全。小さくうなずいたその目に、確かな自信がにじみ出た。
昨年11月以来、359日ぶりのリング。4月に、一度はWBO同級王者カシメロとの3団体統一戦が決まったが、コロナ禍の影響で延期となり、今回のモロニー戦で着地した。絶頂期の中での、1年間のブランク。だが、その期間は、井上にとって、自身と向き合う重要な日々となった。
「強くなりたい」。そのシンプルな思いで戦い続けてきた。国内最速(当時)のプロ6戦目での世界王座奪取から始まった「怪物伝説」。約12年間、世界王座に君臨した名王者ナルバエスを2回KOで引きずり落とし、2階級制覇を果たすと、その後も、強豪相手に豪快なKO劇を連発した。強い相手を求め、派手なパフォーマンスは一切しない。すべてをリング上で見せる姿は、ボクシングファンの枠を超え、広く支持される存在となった。
昨年11月には5階級王者ドネアを相手に、世界の主要メディアで年間最高試合に選ばれる激闘を繰り広げ、バンタム級最強を決めるワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)で優勝。試合後に、米プロモート大手トップランク社と複数年契約を結んだ。ここから-。本格的な海外進出を意識した、その直後のコロナ禍だった。
世界中でリングの音が消えた4月、井上は27歳になった。19歳のプロデビューから8年。引退を公言している35歳まで、残り8年。時間的な余裕も手伝い、折り返し地点に立つ自分を遠い視点から見つめ直した。感じたのは、周りにあふれる称賛、喝采ではなく、ドネア戦後から感じてきた、小さな「違和感」だった。
20代前半と比べると、疲れの回復が遅くなり、スパーリングの中で、体を動かす感覚にもわずかなずれを感じるようになった。だが、その感情は、決して悲観的なものではない。「30歳に近づいてく自分の体とどう向き合っていくか」。今を受け入れ、考え、未来を見据え、行き着いた。
6歳から、父の教えに泣きながら食らいついてきた。ボクシングと向き合う姿勢は、名声を得た今も、何一つ変わっていない。追い求めたのは、「1%も許さない修正力」。わずかな違和感も、後回しにはしないと胸に刻んだ。以前は敬遠してきた海外選手の映像を見る回数を増やし、同門の先輩、八重樫氏に頼み、脳を刺激するトレーニングの教えも受けた。細かく、丁寧に。自分の中の「100%」にこだわってきた。
「第2章」と位置づけた、聖地ラスベガス・デビュー戦に向け、今までにないほど、対戦相手の研究に時間を割き、トレーナー陣と、ミットの出し方、受け方、タイミングを細かくすりあわせた。初体験の無観客試合を想定し、練習中は音楽を消し、所属ジムのインターバルの時間も大橋会長と相談し、以前の40秒から試合と同じ1分に変えてもらった。
井上は言う。「どれだけ褒められても、強くはならない」。自分自身のすべてから目をそらさない。足もとを見続けてきたから、さらに進化したと思える姿で、1年ぶりのリングに帰ってきた。世界の目が注がれる聖地で、井上にしかできない戦いを見せつける。【奥山将志】
2020-10-31 21:00:00Z
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